2012年9月27日木曜日

『桐島、部活やめるってよ』|読書記録


映画、おもしろかったので、文庫版を読みました。朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』。

アマゾンに酷評が多かったので楽しみにしていたのだけれど、文体も読みやすいし内容も映画に比べてひどいってことは全然なかった。
映画と違って、短編連作といったスタイルで、それぞれの人のエピソードはあんまり絡んでいない。1人称描写で内面描写が多くて、そんなに濃いイベントも起こらない。決定的な変化があるわけでもない。でもすごく優しくさり気ないかたちで、たしかにそこにあるんだろう小さな変化を綺麗に掬いとってる。

そういう描き方って、やっぱり小説があってるんだろうなと思う。映像でもモノローグを入れることもできるけど、それが中心になるのは違和感ある。で、モノローグを入れないとなるとやっぱりそれなりのイベントがないと人の変化って表現するのが難しい。映画で桐島がより重い存在としてみんなにのしかかっていたり、キスシーンや屋上のゾンビシーンやバレー部のシゴキシーンがはいるのはわかりやすいイベントが必要になるからなんだろう。最期の宏樹と涼也の会話もそうだし。
映画は映画ですごく好きだけれど(橋本愛は美しいし)、そういったイベント無しにさっと掬い取る小説の描き方もとても好きだ。

教室はとても特異な場所だと思う。同じ時期に近い場所で生まれたってだけであんなにも多くの人が狭い場所に座って同じ方向を見ている。でもその中には断絶があって、みんなが同じ物を見ているわけじゃない。たぶん、学校がなければ一生会わないような人たちと空間をシェアしてる。あんなに狭い空間をシェアしてるわけだから、断絶があったってやっぱり袖が触れ合うわけで、そこで摩擦があって、ドラマが生まれるんだろうな。

ひかりそのものだ、という顔はそこから生まれたのかもしれない、とも思う。



『トリガール!』|読書記録

なんとなく、図書館で目についてので読んだもの。中村航さんの『トリガール!』。
さらっと読めて、展開も先が読めるくらいにわかりやすくて、だけど読むのは楽しい文章。清涼炭酸飲料を飲むような気持ち。
後味もすっきりで飲んだことすら忘れそうな感ある。

2人乗りの機体にこだわってるということで芝浦工大がモデルなんでしょうか。実際公開告白とかやったらしいし→http://tbt.bird.cx/museum/S-180/s180.html
大学生の時に100人超のプロジェクトに関わるっていうのは随分すごいことのように思える。得るものあるだろうし楽しいだろうなと(同じくらいきついと思うけど)。そういう部分はこの本ではあんまり描かれてなかったですね。

ノンフィクションとかドキュメンタリーあったら読みたい。

2012年9月20日木曜日

「北斎のバードアイ‐空からの江戸見物‐」展

先日所用で墨田区役所へ行ったのですが、「北斎のバードアイ‐空からの江戸見物‐」という展覧会をやっていたので観てきました。


葛飾北斎て墨田の人だったんですね。
スカイツリーから見える場所の絵が集められていて、知っている地名の絵がたくさんあって興味深かったです。

謎だったのは作品のタイトルなど書いてあるプレートに、摺絵とかかれているものと錦絵と書かれているものがあったこと。どういう分類なんだろう?

富嶽三十六景の東都浅草本願寺とか、青をメインで使っているものは、その青がすごく綺麗で好き。浅草本願寺のは上にも画像があるけど、実際に見るほうがすごく綺麗な青だった。

2012年9月4日火曜日

SLEPテストが6月30日で廃止されていた

中高生を対象とした英語の試験で、高校生留学の英語レベルの測定に広く用いられているSLEPテストが、今年2012年の6月30日で廃止されたことがSLEPの運用元であるETSのページで公表されています。

About the SLEP® Test

The SLEP® test has been discontinued as of June 30, 2012. Materials cannot be ordered after that date.
If you are looking for a low- to medium-stakes, objective measure of proficiency in English for younger students, the TOEFL® Junior™ test has been specifically designed for students ages 11–15 for whom English is a foreign language. To learn more about how the TOEFL Junior test can help your students, visit the TOEFL Junior website.
ETS https://www.ets.org/slep/about

"SLEPテストは2012年6月30日以降継続されません。この日以降、SLEPテストに関する素材は注文できません。"

今までSLEPを用いていた人たちに対しては、TOEFL Juniorを代わりとなるようです。
日本のTOEFL Juniorのページはこちら

全然知らなかったです。知人の中学生で現在進行形でSLEP受けているヒトいるけど大丈夫なのかな。
どうやら高校留学のエージェントさんたちのなかには、今年中は手持ちのSLEPテストで英語力を測定するところもあるようです。来年以降、TOEFL Juniorへ移行していくのでしょうね。

追記
アルク留学センターでは、少なくとも2012年12月までのあいだはSLEPテストを実施するとコメントを出しています。
http://www.alc-communications.jp/jr/aboutslep.html

TOEFL Juniorが留学センターなどで実施できる類の試験なのかは不明です。



私事ですがお手伝いしている英語塾でもSLEP対策を行なっています。
http://meiseiacademy.com/slep_toefl_junior.php


2012年9月1日土曜日

『桐島、部活やめるってよ』をみて思い返したことなど|鑑賞記録

『桐島、部活やめるってよ』をみてきた。

小説は読んでいません。
久しぶりに映画館で映画を見たので、そのおかげで2割増しくらい高評価になっていると思う。映画館の大画面で明るい場面が表示されるだけでドキドキした。あの動悸が作品自体の良さからきた感動だと頭が勘違いしてしまう。吊り橋効果みたいなものだと思う。日常的に映画を見ていたらそんなことはないと思うけれど。

小学校から高校くらいまでの生活に、確かにあった、あるいはあったと今思っている風景の断片をわかりやすく描いている。サッカーでメンバー選ぶところとか。公式サイトの特典映像の女の子4人組の友情についての話も良い。たしかにそこに学校があると思えた。それを積み重ねて物語をドライブさせていく構成はとても好み。
そして橋本愛が凄まじかった。どのシーンも好き。あの美しさ見るだけでも価値あるんじゃないかと思う。
自分の高校生活を省みたり、今の高校生たちを見ていて、ちょっと整合性ないかなと思うところもあるけれど(吹奏楽コンクールの時期とか)、瑣末なことだと割り切ればいいと思う。

この映画を見て思い出した感覚は、高校より中学の時の生活に近い。僕が通っていた高校は進学校だったこともあって、「学業成績」っていう統一されたものさしが一応みんなの頭ん中に入ってた。でも中学の時は「学業成績」とか「運動」とか「垢抜け具合」とか「腕っ節の強さ」とか「趣味に関する知識」とか、いろんなものさしが混在していて、どれも支配的ではなくって、それぞれがそれぞれのものさし使って測り合っていた。小学校中学年くらいまでの、近くに住んでいてみんな仲良し、みたいなところから、それぞれ自分の選んだものさしに則したグループに分かれつつあったのが、決定的になったのも中学の頃だった。映画に出てきた女の子4人組のように。
あの頃、そうやって学校という小さな社会が分化していく中で味わった、安堵と疎外感が胸に蘇ってきてすごく動揺した。その動揺が今も胸に残っているのでこうして書きとめようとしている。


以下は映画を見て思い返した昔話。改竄された記憶の可能性も大いにある。なんとなくメモ。

高校1年生の秋、部活をやめた。3年生が多かったが何故か2年生が1人しかおらず、夏休み前に部長から会計やらなにやら部の雑務を僕が引き継いでいた(さすがに部長になったわけではなかったと思うのだけれどその辺りはよく覚えていない)。
2週間のとても短い夏休みが終わって、休みの終わりに部長が海で亡くなったことを知らされた。葬式の様子はおぼろげに覚えている。
そのあと、僕は部活へ行かなくなって、そのまま辞めてしまった。おそらく。この時期の記憶は曖昧ではっきりしていない。そして何より、イベントとしては少しは覚えているのだけれど、その頃なにを考えていたのか、なにを感じていたのかは、全く記憶に残っていない。

人の記憶や感情は儚い。昔のことを思い出してもし感情が昂っても、それはあくまで今の感情だ。そのもとになる思い出すら大いに改竄されているんだろう。だから、その時々の気持を大切に、なるべく早く行動に反映すべきだと思う。行動はカタチに残るから。なにもせずに考えていたり感じたりしたことも未来の自分を作る要因の一つになるとは思う。けれどそれが未来を大きく変えると思えるほどには、自分を信用出来ない。これは今思い返しての反省。

僕は菊池くんのような万能人間ではなかったけれど、一生懸命やっている人たちを不思議に思いながらも眩しく見ているという点で彼に一番共感したかも知んない。

本 vs 電子書籍 読み聞かせに向いているのはどっち?

28日発行のBEATのメールマガジン「Beating」第99号でも紹介されていましたが、the Joan Ganz Cooney Centerが印刷された本と、電子書籍のメディアの違いによる読み聞かせ体験について興味深いレポートを発表しています。
the Joan Ganz Cooney Centerはデジタルメディアを通したこどもの学習について調査研究を行なっているアメリカの団体です。

今回はこの『Print Books vs. E-books』と題された2012年3月のレポートについて紹介します。

電子書籍が登場してからある程度時間が経ちました。当初の電子書籍は、紙の本の文字列を単純にデジタル化したシンプルなものでした。それに加えていまでは、文字だけでなく音や動画などのマルチメディアが用いられたりインタラクティブな動きを取り込んだ電子書籍が現れています。

今回紹介するレポートでは、従来の紙の本、単純にデジタル化したシンプルな電子書籍、そしてマルチメディアやインタラクティブ性を取り込んだ多機能な電子書籍の3つのフォーマットを取り上げて、フォーマットによる親子の読み聞かせ体験の違いについて調査しています。

はじめに注意していただきたいのは、これはあくまで32組の親子を対象とした小規模な調査で、結論を下すにはもっと大規模でサンプルの偏りを排した調査が必要だという点です。しかし、それを差し引いても、なかなか示唆に富んだ結果が得られています。

調査の目的
調査グループは次の3つの問をたてています。

・それぞれのフォーマットで読んだ時の、親と子のやりとり、子どもの書籍にたいする行動はどのようなものか。

・子どもの読み聞かせへの没頭具合はフォーマットによってどのように異なるか。

・子どもたちの物語の理解はフォーマットによってどのように異なるか。

調査の形式
調査の形式についても簡単に紹介しておきましょう。詳しくは記事の最後に引用元のレポートへのリンクを載せていますのでそちらをご覧ください。

調査は32組の親子を対象としています。子どもの年齢は3歳から6歳。32組の親子は、読み聞かせに用いるフォーマットと、読む順番によって、次の4つのグループに分けられました。

グループ1:紙の本を先に読み、次にシンプルな電子書籍を読む。
グループ2:シンプルな電子書籍を先に読み、次に紙の本を読む。
グループ3:紙の本を先に読み、次に多機能な電子書籍を読む。
グループ4:先に多機能な電子書籍を見、次に紙の本を読む。

電子書籍はどちらのフォーマットのものもiPad上のものを用いています。
それぞれの読み聞かせのあとに、調査スタッフが子どもに質問をし、物語の理解度を評価します。読み聞かせの様子はビデオに撮り、2人の調査スタッフが没頭具合と、親と子のやりとりと子供の本にたいする行動の頻度と種類を記録します。

調査の結果
1.それぞれのフォーマットで読んだ時の、親と子のやりとり、子どもの書籍にたいする行動はどのようなものか。



Cynthia Chiong, Jinny Ree, Lori Takeuchi, and Ingrid Erickson.(2012.3)Print Books vs. E-books.より

上の図は、読み聞かせ中の親と子の行動の頻度を表しています。黒い点は書籍の内容についての行動の数を、青い点は書籍の内容に関係のない行動の数を示しています。ちなみにここでいう「行動」とは、発言や、指差し、呼びかけなどのことです。
図は大きく2つにわかれていて、左半分のSTORY Aと書かれている方は紙の本とシンプルな電子書籍を読んだグループの結果をまとめたもの、右半分は紙の本と多機能な電子書籍を読んだグループの結果です。
紙の本とシンプルな電子書籍を読んだグループでは、本か電子書籍かに関わらず、内容に関係する行動の頻度は変わりません。しかし、内容と関係のない行動は、親子ともに、電子書籍を読む時のほうが多い傾向にあります。内容についての行動の数を維持して、その他の行動(会話など)が増えているので、シンプルな電子書籍は紙の本よりも読み聞かせに適しているように思われます。
一方、紙の本と多機能な電子書籍を読んだグループでは、電子書籍を読んだ場合に内容と関係のある行動は極端に減り、逆に内容と無関係の行動が多くなっています。特に子どもは、電子書籍を読んだ時には内容と関係のある行動をほとんどしなくなっていることが読み取れます。具体的にはデバイスや機能そのものに焦点をおいた会話が多くなったということです。

2.子どもの読み聞かせへの没頭具合はフォーマットによってどのように異なるか。
引用元同上

上記の図は、調査に参加した32組の親子の読み聞かせへの没頭具合が、フォーマットによって異なっていたかを示したものです。
左のグラフは、親と子のやりとり、子供の本への没頭具合、親の本への没頭具合、楽しんでいるか、ということを総合的に評価したものです。63%の親子はは紙の本でも電子書籍でも同じくらい読み聞かせに没頭していたようです。電子書籍のほうがより没頭できた親子は6%に過ぎなかったということでした。一方で31%の親子が紙の本のほうが没頭できていました。
右の図は、子どもの本への没頭具合のみを示したものです。60%超はやはりフォーマットによらず同じように没頭していました。しかし子どもについては、電子書籍のほうが没頭できている数が多くなっています。デバイスにタッチしたりといった行動が見られたようです。

3.子どもたちの物語の理解はフォーマットによってどのように異なるか。

引用元同上

上手は、読んだ物語をどれくらい思い出せるかを示した図です。一番右の、多機能な電子書籍で物語を読んだ子どもたちの理解度が、他のフォーマットに比べて低いことが読み取れます。これは親子ともに物語とは直接関係ない、電子書籍の特徴の方に集中してしまうからだとレポートでは述べています。

所感
レポートでは「親は内容を重視するなら、読み聞かせには紙の本かシンプルな電子書籍を選ぶべき。多機能な電子書籍は、普段読書しない子の興味を引くには良い。」としています。
私は、多機能な電子書籍が内容とは関係ないところに興味を引いてしまうのは、単純にそれが新しくて、珍しい体験だからではないかと思います。デザイナーが、それらの新しい機能を上手く物語に統合できていないということもあるかもしれません。映画や、ゲームが本に比べて物語を御理解し難いか、といえばそんなことはないと思うのです。いずれマルチメディアやインタラクティブ性が物語に綺麗に統合され、多機能な電子書籍というものが当たり前の存在になっていくでしょう。その時には、読み聞かせという場においてもそのような電子書籍は素晴らしい体験を与えてくれるものになると思います。それまでのあいだは、このレポートの忠告を聞いておくのが良いかもしれません。
多機能な電子書籍は、従来の本やシンプルな電子書籍とは全く異なる体験を提供するものになると思っています。それらは対立軸で語られるものではなくて、本と映画のように並列に在るものになるのではないでしょうか。
従来の本のいいところは、文字情報という制限された伝達手段を用いることで、読み手に応じて多様な世界が繰り広げられるとことだと思います。それはそれで、いつまでも残ってほしいなと思います。


もとのレポートはこちら

Cynthia Chiong, Jinny Ree, Lori Takeuchi, and Ingrid Erickson.(2012.3)Print Books vs. E-books.
http://joanganzcooneycenter.org/upload_kits/jgcc_ebooks_quickreport.pdf