2012年5月9日水曜日

『ピダハン』(ダニエル・L・エヴェレット)不安のない生活と認知世界|読書記録

冒頭から面白い。同じ場に居ながらピダハンたちに見えて著者と娘には全く見えない”精霊”の話。
『ピダハン』はアマゾンに住む先住民族のひとつであるピダハンについて、その特異な言語や文化を言語学者であり、伝道師であった著者が書いた科学ノンフィクション。

未来や過去にとらわれず、今日この時だけを生きるのが不安のない生活を送る秘訣だといったのはデール・カーネギーだったか。ピダハンはそれを地で行く人々だ。"直接体験を非常に重視する"という強い文化的制約のもとで、そもそもの認識される時間軸が短い。簡単に言うと自分の体験したこと、知ってる人の体験したことしか信じないので世界は2世代前くらいまでしか時間軸上で広がっていないのだそう。だから彼らに創世神話はないし、聖書の話も信じない。また直接体験を重視するために、抽象化ということもしない。なにしろ数の概念がないのだ。抽象化しないのであれば未来のことも考えないだろう。ピダハンは食べ物の貯蓄もいっさいしない。過去や未来にとらわれず、今を生きているのである。

もちろん、ピダハンは楽園に生きているわけではなく、乳児生存率は低いし、寿命は西洋人の半分くらいだ。男は毎日猟に出て女子供は採集にでる。それでもピダハンの村には笑いは絶えなく、実際に西洋人より有意に圧倒的に笑っている時間が長いのだそうだ。幸せってなんだろうって思ってしまう。

ピダハンの言語の特異さや、ピダハンと著者の認知世界の差異などについても随所で言及されていて(むしろそっちがメインか)はじめから終わりまで大変興味深く読めた。世界ってなんだろう。幸せってなんだろうと考える事請け合いの良い本。

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