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2012年9月1日土曜日

本 vs 電子書籍 読み聞かせに向いているのはどっち?

28日発行のBEATのメールマガジン「Beating」第99号でも紹介されていましたが、the Joan Ganz Cooney Centerが印刷された本と、電子書籍のメディアの違いによる読み聞かせ体験について興味深いレポートを発表しています。
the Joan Ganz Cooney Centerはデジタルメディアを通したこどもの学習について調査研究を行なっているアメリカの団体です。

今回はこの『Print Books vs. E-books』と題された2012年3月のレポートについて紹介します。

電子書籍が登場してからある程度時間が経ちました。当初の電子書籍は、紙の本の文字列を単純にデジタル化したシンプルなものでした。それに加えていまでは、文字だけでなく音や動画などのマルチメディアが用いられたりインタラクティブな動きを取り込んだ電子書籍が現れています。

今回紹介するレポートでは、従来の紙の本、単純にデジタル化したシンプルな電子書籍、そしてマルチメディアやインタラクティブ性を取り込んだ多機能な電子書籍の3つのフォーマットを取り上げて、フォーマットによる親子の読み聞かせ体験の違いについて調査しています。

はじめに注意していただきたいのは、これはあくまで32組の親子を対象とした小規模な調査で、結論を下すにはもっと大規模でサンプルの偏りを排した調査が必要だという点です。しかし、それを差し引いても、なかなか示唆に富んだ結果が得られています。

調査の目的
調査グループは次の3つの問をたてています。

・それぞれのフォーマットで読んだ時の、親と子のやりとり、子どもの書籍にたいする行動はどのようなものか。

・子どもの読み聞かせへの没頭具合はフォーマットによってどのように異なるか。

・子どもたちの物語の理解はフォーマットによってどのように異なるか。

調査の形式
調査の形式についても簡単に紹介しておきましょう。詳しくは記事の最後に引用元のレポートへのリンクを載せていますのでそちらをご覧ください。

調査は32組の親子を対象としています。子どもの年齢は3歳から6歳。32組の親子は、読み聞かせに用いるフォーマットと、読む順番によって、次の4つのグループに分けられました。

グループ1:紙の本を先に読み、次にシンプルな電子書籍を読む。
グループ2:シンプルな電子書籍を先に読み、次に紙の本を読む。
グループ3:紙の本を先に読み、次に多機能な電子書籍を読む。
グループ4:先に多機能な電子書籍を見、次に紙の本を読む。

電子書籍はどちらのフォーマットのものもiPad上のものを用いています。
それぞれの読み聞かせのあとに、調査スタッフが子どもに質問をし、物語の理解度を評価します。読み聞かせの様子はビデオに撮り、2人の調査スタッフが没頭具合と、親と子のやりとりと子供の本にたいする行動の頻度と種類を記録します。

調査の結果
1.それぞれのフォーマットで読んだ時の、親と子のやりとり、子どもの書籍にたいする行動はどのようなものか。



Cynthia Chiong, Jinny Ree, Lori Takeuchi, and Ingrid Erickson.(2012.3)Print Books vs. E-books.より

上の図は、読み聞かせ中の親と子の行動の頻度を表しています。黒い点は書籍の内容についての行動の数を、青い点は書籍の内容に関係のない行動の数を示しています。ちなみにここでいう「行動」とは、発言や、指差し、呼びかけなどのことです。
図は大きく2つにわかれていて、左半分のSTORY Aと書かれている方は紙の本とシンプルな電子書籍を読んだグループの結果をまとめたもの、右半分は紙の本と多機能な電子書籍を読んだグループの結果です。
紙の本とシンプルな電子書籍を読んだグループでは、本か電子書籍かに関わらず、内容に関係する行動の頻度は変わりません。しかし、内容と関係のない行動は、親子ともに、電子書籍を読む時のほうが多い傾向にあります。内容についての行動の数を維持して、その他の行動(会話など)が増えているので、シンプルな電子書籍は紙の本よりも読み聞かせに適しているように思われます。
一方、紙の本と多機能な電子書籍を読んだグループでは、電子書籍を読んだ場合に内容と関係のある行動は極端に減り、逆に内容と無関係の行動が多くなっています。特に子どもは、電子書籍を読んだ時には内容と関係のある行動をほとんどしなくなっていることが読み取れます。具体的にはデバイスや機能そのものに焦点をおいた会話が多くなったということです。

2.子どもの読み聞かせへの没頭具合はフォーマットによってどのように異なるか。
引用元同上

上記の図は、調査に参加した32組の親子の読み聞かせへの没頭具合が、フォーマットによって異なっていたかを示したものです。
左のグラフは、親と子のやりとり、子供の本への没頭具合、親の本への没頭具合、楽しんでいるか、ということを総合的に評価したものです。63%の親子はは紙の本でも電子書籍でも同じくらい読み聞かせに没頭していたようです。電子書籍のほうがより没頭できた親子は6%に過ぎなかったということでした。一方で31%の親子が紙の本のほうが没頭できていました。
右の図は、子どもの本への没頭具合のみを示したものです。60%超はやはりフォーマットによらず同じように没頭していました。しかし子どもについては、電子書籍のほうが没頭できている数が多くなっています。デバイスにタッチしたりといった行動が見られたようです。

3.子どもたちの物語の理解はフォーマットによってどのように異なるか。

引用元同上

上手は、読んだ物語をどれくらい思い出せるかを示した図です。一番右の、多機能な電子書籍で物語を読んだ子どもたちの理解度が、他のフォーマットに比べて低いことが読み取れます。これは親子ともに物語とは直接関係ない、電子書籍の特徴の方に集中してしまうからだとレポートでは述べています。

所感
レポートでは「親は内容を重視するなら、読み聞かせには紙の本かシンプルな電子書籍を選ぶべき。多機能な電子書籍は、普段読書しない子の興味を引くには良い。」としています。
私は、多機能な電子書籍が内容とは関係ないところに興味を引いてしまうのは、単純にそれが新しくて、珍しい体験だからではないかと思います。デザイナーが、それらの新しい機能を上手く物語に統合できていないということもあるかもしれません。映画や、ゲームが本に比べて物語を御理解し難いか、といえばそんなことはないと思うのです。いずれマルチメディアやインタラクティブ性が物語に綺麗に統合され、多機能な電子書籍というものが当たり前の存在になっていくでしょう。その時には、読み聞かせという場においてもそのような電子書籍は素晴らしい体験を与えてくれるものになると思います。それまでのあいだは、このレポートの忠告を聞いておくのが良いかもしれません。
多機能な電子書籍は、従来の本やシンプルな電子書籍とは全く異なる体験を提供するものになると思っています。それらは対立軸で語られるものではなくて、本と映画のように並列に在るものになるのではないでしょうか。
従来の本のいいところは、文字情報という制限された伝達手段を用いることで、読み手に応じて多様な世界が繰り広げられるとことだと思います。それはそれで、いつまでも残ってほしいなと思います。


もとのレポートはこちら

Cynthia Chiong, Jinny Ree, Lori Takeuchi, and Ingrid Erickson.(2012.3)Print Books vs. E-books.
http://joanganzcooneycenter.org/upload_kits/jgcc_ebooks_quickreport.pdf