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2/9イベント時ふじのきさん家(ふじのきさんち)正面の様子 |
「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」というコミュニティスペースが3月の終わりにオープンします。今日はすみだ耐震補強フォーラムの一環として「ふじのきさん家(ふじんのきさんち)」を紹介するプレイベントが行われました。
「耐震補強フォーラム」と「コミュニティスペース」というのはなかなか不思議な組み合わせかもしれません。これには「ふじのきさん家(ふじんのきさんち)」が出来上がるまでの特異な経緯があります。「ふじのきさん家(ふじんのきさんち)」は多くの成功したコミュニティスペースのような強い志を持った個人から始まった活動ではなく、行政や研究機関を巻き込んだ大きな枠組の中から生まれてきたプロジェクトです。
ユニークで興味深いプロジェクトなので私なりの視点から「ふじのきさん家(ふじんのきさんち)」プロジェクトのこれまでの経緯についてまとめてみたいと思います。
※ここに記したことは個人的な認識でいかなる団体を代表したものでもありません。
コミュニティの高齢化と地域安全保障の問題を解決したい
墨田区の北部、隅田川と荒川の間の地域は、1923年の大震災や大戦の戦火を免れた地域で、古い木造住宅が密集している場所が散在しています。これらの建物は旧い建築基準に則ってたてられたもので中には壊れやすく、燃えやすいものも少なくありません。近年懸念されている首都圏直下地震などの大規模な災害が起きた時に、この地域全体で大きな火災がおきるというシミュレーションも行われています。つまり、災害に弱い地域なのです。
このようなハード面の不安を抱えながらも、町内会などの地域に根ざした地縁組織を中心とした緊密なコミュニティによって暮らしていく上での一定の安心感が担保されてきました。災害に対しても地域内で一体感のある防災意識が醸成されていることは、例えば一時避難の際にも有利に働くと考えられます。
しかし、大通り沿いのマンションへの入居者などの新しい住民と古くからの地域住民とのコミュニティの断絶や、古くからの地縁組織そのものの高齢化により、コミュニティの力が弱まってきています。このようにソフト面においても、地域の安全保障を担保することに不安が感じられるようになってきたという現状があります。
これに対して行政は、建物の不燃化耐震化を促進するというハード面の解決を図る事業を通して長くコミットして来ました。しかしこの事業は建物の持ち主に決して少なくない金銭的な負担が生じることもあって彼らの思うように進んではいないという現状が伺えます。加えて上記のコミュニティの弱体化が深刻化する中で、ハード・ソフト両面から地域の安全保障を担保すべきという機運が高まってきました。
そんな中で、墨田区と(財)都市防災研究所が中心となって、『
すみだ燃えない・壊れないまちづくり会議』がたちあがったのです。
すみだ燃えない・壊れないまちづくり会議
『すみだ燃えない・壊れないまちづくり会議』は東京大学工学部教授小出治氏を座長とした会議体ですが、主に『東京都新しい公共の場づくり支援モデル事業』に取り組んでいます。
住み続けることのできるまち・すみだを目指して
『東京都新しい公共の場づくり支援モデル事業』
墨田区北部の木造密集市街地では地域を支える担い手の高齢化が進み、安全・安心を支える地域のつながりが弱くなり、高齢者の引きこもりが増えている。結果として、老朽化した木造住宅の改修、建替えは進まず、市街地の安全性について確保されていない。喫緊に迫る首都直下地震に対応するため、地域コミュニティの再活性化、並びに老朽化した木造建築物の不燃化、耐震化の促進と安全・安心に住み続けるための機能導入が必要とされています。
老朽化した木造建築物の不燃化、耐震化の促進と安全・安心に住み続けることのまちを目指し、NPOや 地縁組織、行政等が協力し、地域の福祉・相談機能を担う『寄合い処』社会実験を通じて、地域防災力を強化するとともに、モデルを墨田区全体に拡げるための中間支援・資金調達の仕組みを検討し、具体化することを目的に、すみだ燃えない・壊れないまちづくり会議が、『新しい公共の場づくり支援モデル事業』(平成23年9月~平成25年3月)に、取り組んでいます。 -2013/02/09 http://www.udri.net/sumidaHP/sumida.htm
長いですが要約すると、 先ほどあげた建物の不燃化耐震化の促進と、地域のコミュニティを担う『寄合い処』というコミュニティスペースを通して地域の防災力を強化し、そのスキームを墨田区全体へ普及する支援を行なっていくという趣旨の事業であり、まさに先に述べた墨田区北部の問題の解決にハード面・ソフト面両面からとりくんで行く意思が伺えます。
「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」は、そのはじめの『寄合い処』モデルとして誕生したプロジェクトなのです。
「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」のおもしろいところ
多くの成功しているコミュニティスペースは、個人から始まった活動です。その個人は複数人かも知れませんし、自治体や商店街の支援を受けているかもしれません。あるいは商業ベースかもしれません。しかし、基本的には志を持った個人が自分の想いを実現していく中で、地域のコミュニティとしての機能を担っていく、というのがこれまでのコミュニティスペースの在り方、生まれ方でした。
「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」の興味深いところは、行政主導で始まっている、というところです。区が中心となって立ち上げた『すみだ燃えない・壊れないまちづくり会議』という会議体が(来年度にはNPO団体となる予定です)、まずスペースを作り、そこでの活動を促していくというかたちで、「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」は生まれました。このような形は他にはまだないかもしれません。更に、「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」をモデルとしてスキーム化し、区全域へ広めていくつもりでいるようです。
今回、同じく区が主導する耐震協議会のイベントに「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」が登場することになったのも、このような経緯があってのことです。
これから活動が活発化していく中で、責任の所在や意思決定の方法など、試行錯誤で進むのではないかと察せられます。半ば自然発生的に生まれてきた新しいコミュニティの形を、行政が支援するだけでなく作為的に作り上げられるのか、非常に興味深く、これからも見守って行きたいと思っています。
「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」のいま
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2/9イベント時ふじのきさん家(ふじのきさんち)一階の様子 |
現在のところ、「ふじのきさん家(ふじのきさんち)」は『すみだ燃えない・壊れないまちづくり会議』の事務局である(財)都市防災研究所と、地元の町内会の方々を中心として運営されています。3月末のオープンに向けてこれまで幾度かプレイベントを行なっているようですが、参加されているのは町内会の関係者や報道機関、会議体関係者、街づくり関係者が中心のようです。
これから町内会と関わりの薄い住民層をどれだけ取り込めるのか、持続的な活動のためのファンディングをどのように行なっていくのか、課題は多いですが先が楽しみです。
参考
ふじのきさん家HP
すみだ燃えない・壊れないまちづくり会議の取り組み|(財)都市防災研究所