2011年7月19日火曜日

『その数学が戦略を決める』


その数学が戦略を決める

その数学が戦略を決める』という本を読みました。この本では今まで専門家の経験や知識に裏打ちされて判断されていた様々な意思決定の場面に於いて、統計を中心とした数学的な手法をもとに意思決定を行うように移行している様子がたくさんの例を上げて書かれています。
例えば、ワインを醸造してから10年寝かせたあとのおいしさは、従来、ワイン評論家といった専門家が醸造した時点で試飲し、その経験と知識によって予測されていました。ですが、その年に用いたぶどうが育った環境、例えば降雨量や気温などの数値と、過去の統計情報からつくられた回帰式を用いることで、かなり正確に(それこそ専門家の予想よりも精度良く)予想できてしまうのです。
ここで過去の統計情報から作られた回帰式と言っているのは、すでに10年以上たっておいしさが評価されているワインについて、それが作られた年の降雨量や気温を調べ、その関係性を評価して、降雨量や気温から10年後のワインの美味しさを評価する式を導くということです。

教育についても大変興味深い例が挙げられています。下の動画はジョージ・ブッシュ前大統領がある教室を訪問している映像です。

実はこの映像は911の事件が丁度起こったときのもので、その後、マイケル・ムーア監督の『華氏911』でも使われたことで有名になりました。
しかしここで問題にしたいのはこの教室で行われている授業手法のことです。この教室では『ダイレクト・インストラクション』という教育方法が行われていました。
ダイレクト・インストラクションでは教師の教室での振る舞いは、生徒への指示やうながし、質問などを含め、すべてマニュアル化されており、そこに教師の裁量の余地は全くありません。授業形態については動画を見ていただければと思います。
実はアメリカでは、1967年からダイレクト・インストラクションを含めた17の教育方法を初等教育にて受けた7万9千人の児童を20年間追跡するという調査を行いました。その教育方法の中には児童たちの自主性を尊重してカリキュラムをカスタムするものから高次思考や問題解決能力を重視するもの、学習への熱意や自尊心を強調するものもありました。
そしてその結果として、ダイレクト・インストラクションの有効性が飛び抜けて高いことが証明されたのです。しかもそれはダイレクト・インストラクションで扱っている基本的な知識のみだけだなく創造性や問題解決能力が求められる範囲においてもでした。

しかしながら現在のところダイレクト・インストラクションはあまり普及していないようです。というのも現場の教育者や教育組織の反発があまりに大きかったからです。
このような数学的に有効性が証明された手法と、直感や個人的体験、哲学的な信念に基づいた従来の手法の対立は、今現在、至る所で起こっています。そして少しづつ切り替わっているように見受けられます。
たとえばかつて銀行の融資担当者はある一定の地位を持ち、給料も良く、誰が融資を受けるべきか決める本当の権限を持っていました。今日では融資判断は銀行の統計アルゴリズムに基づいて行われ、融資担当者は裁量の余地を失っています。

このように、今まで現場の職員などに分散されていた裁量が、中央のアルゴリズムを決定するところへ移っていっています。これからの時代ほど、数学が重要視される時代はないかもしれません。

僕自身いろいろな意思決定をほぼ直感で行っていますが、ちょっと不味いかもしれないと思わされました。統計についてはひま観て勉強したいです。

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